第16号「宝満山のヒキガエル」
梅雨時期の宝満山では体長1cmにも満たない子ガエル(ヒキガエル)の山登りを見ることができます。子ガエルは道中で側溝に落ちたり、アリに襲われたり、天敵のヤマカガシに狙われたりといった危険を乗り越えながら、約50日かけ山頂を目指します。
カエルの山登りという珍しい現象を見守りながら、宝満山の自然の素晴らしさを伝えていきます。
宝満山を登るヒキガエル
標高829mながら急峻な山路(やまみち)の宝満山は、福岡県内で屈指(くっし)の人気をほこる山です。そんな宝満山では5 月下旬から7 月初旬にかけての梅雨時期、不思議な現象が見られます。それが体長わずか1 ㎝足らずのヒキガエルの子どもによる登頂です。
宝満山中に生息するヒキガエルは2 月頃、野々道池に降りて産卵を行い、10 万以上とも言われる数の卵を産みます。
卵は数週間で孵化し、池は無数のオタマジャクシで溢れます。3 月に孵化したオタマジャクシは池で成長し、2 ~ 3 か月で子ガエルへと変態します。約1 万~ 10 万の変態した子ガエルたちは池から上陸し、続々と最大標高差600m、道程約2.5 ㎞の山頂を目指して登頂を開始します。子ガエルは途中から登山者と同じ登山道を通りながら一の鳥居、羊腸(ようちょう)の道、百段がんぎ、中宮跡などのスポットを通過し、山頂の本宮を目指して、だいたい1か月かけて登頂します。
カエルを待ち受ける難所
山登りを開始した子ガエルたちには多くの難所(なんしょ)が待ち受けています。山中の車道を通る車により、多くのカエルがひかれるほか、深さ約30 ㎝の側溝は一度落ちるとはい上がるのは大変です。次に待ち受けるのはアリの行列。近くを通ると襲われてしまいます。そして天敵の蛇、ヤマカガシの襲来。ヤマカガシはヒキガエルを好物とし、山中の茂みからカエルをねらいます。
これらの難所を乗り越え、最終的に頂上までたどり着くのは100 ~ 1000 匹程度だと考えられます。
多くの子ガエルは道中で天敵に食べられてしまうほか、途中で自分の生活場所を見つけ登山を辞めるようです。子ガエルは山中に入り大人になるまで暮らし、産卵時期になると池に戻ってきます。
なぜカエルが登山するのか、詳しい理由は分かっていませんが、登山者の靴底に付いたカエルの匂いが「匂いの道」となって、カエルの道標になっていると考えられています。
宝満山に生息するヒキガエルと、宝満山に登る人の営みが結びつき、この現象が起きたのかもしれません。
◇観察記録(宝満山ヒキガエルを守る会による)
野々道池を出発してから山頂に登頂するまでの期間
2016 年5/24 出発~ 6/25 登頂
2017 年5/24 出発~ 7/7 登頂
2018 年5/13 出発~ 6/27 登頂
2019 年5/19 出発~※7合目までしか確認できず
2020 年5/14 出発~ 6/30 登頂